2015.
06.07
Sun
建築年 : 大正~昭和初期、 何度か増改築有り
構 造 : 木造2階、一部平屋建て
設 計 : 不明、 吉田 五十八(1948・1953・1957)増改築、 大江 匡(1991)増改築 
施 工 : 水澤工務店(1948・1953)
所在地 : 神奈川県三浦郡葉山町一色2320
交 通 : JR逗子駅・京急新逗子駅~バス18分~
       「三ヶ丘・神奈川県立近代美術館前」バス停~徒歩2分
見 学 : 10:00~17:00(入館は16:30迄)600円
       月曜日(祝日の場合は翌日)・年末年始・展示替え・館内整備日は休館
       TEL : 046-875-6094
      ※詳しくはコチラ⇒【山口蓬春記念館
山口蓬春邸
 この建物は、吉田五十八が増改築の設計を手掛け、山口蓬春が昭和23年(1948)から亡くなるまで過ごした、葉山の住まいです。
この屋敷と遺品が平成2年(1990)JR東海生涯学習財団へ寄贈され、翌年に玄関や展示室などを改築(設計:大江 匡)し、『山口蓬春記念館』として平成3年の生誕日(1991/10/15)にOPEN。 平成12年度にも改修を施し、平成13年より2階座敷が一般公開されています。
 逗子といえば青空に爽やかな海というイメージ。 ところが私の訪問した日は、雨降りのどんよりとした海。 企画展「山口蓬春と吉田五十八展」(2014.8.22~10.19)に併せて開催された「山口蓬春邸園ツアー」は、雨のため屋内のみとなりましたが、その分じっくりと解説して下さり、通常は見られない画具棚の中も見る事が出来ました。
山口蓬春邸・画室1
 東京・祖師谷の邸宅(現存せず)も、東京美術学校(現・東京藝術大学)の同窓生である吉田五十八が手掛けました。 山口蓬春は、終戦間際の昭和20年(1945)にその家を手放し、山形の赤湯へ疎開。 戦後、疎開先から戻っても東京の住まいを買い戻す事が出来ず、昭和22年の春先、山﨑種二(山種証券 創業者)の葉山別邸2階に仮住まいをしていました。
 その後の昭和23年にライカの売却金で、戦前は宮内省の高官が住んでいた(戦時中は会社の寮)という中古物件を購入し、東京美術学校教授となっていた吉田五十八に改修設計を任せ、同年に完成。 当初は2階を画室としましたが、夏は暑くて絵が描けず、一番涼しい1階の次の間は暗いため、昭和28年に画室を増築、昭和32年に母屋の増改築(茶の間の増築、縁側の撤去など)を実施。 その際は絵や私物を売り払い、費用に充てていました。(※1)
 吉田五十八の近代数寄屋は大和絵を画くのに良いようで、伊東深水・梅原龍三郎・川合玉堂・小林古径・山川秀峰など、数多くの画室を手掛けています。 その設計に際し、画人の人柄と画風画格を真の髄まで頭に入れきってからモノを考え始めると、吉田五十八は語っていたそうです。(※2)
 ちなみに、山口蓬春画室の図面担当者は、弟子の大関 徹。 他にも、玉堂美術館や北沢会館(現:諏訪市文化センター)等を担当しており、大関徹 自身による設計は、西新井大師総持寺本堂や赤鳥庵(目白庭園)等があります。
山口蓬春邸・画室3
火鉢は、祖師谷の家でも使っていた物。 その当時は畳敷きで、毛氈を敷いて画を描いていた。
痔を患っていたようで、中国風に腰掛けて描きたいと五十八に依頼し、この画室では机と椅子に代えている。
山口蓬春邸・画室4
画室の化粧材は赤杉、 壁・天井は京壁 
左:床は本桜の寄木貼り。 段差の部分は出隅をトメにし、木口を見せないようにしている。
 壁に収納された建具は、欄間と障子を一体化し、景色を損なわないデザインとなっている。
右:画室の天井には建築照明。 蛍光灯と電球を併用し自然光に近づけている。
山口蓬春邸・画室2
画室北側:網戸・硝子戸・障子は、壁に収納して全開できる。 
      南側も同様に、雨戸・網戸・硝子戸を全開できる。
山口蓬春邸・家具
吉田五十八がデザインした家具
テーブルセット(上)は、日本橋高島屋1952年「新日本感覚の建築美術展」出品作と同じ物。
変形卓子・スツール等は、この画室に合わせてデザインされた。
山口蓬春邸・画室棚
画具棚:モンドリアン風にするため扉に取手を付けず、棚枠を漆塗り(※2) 製作は岡村多聞堂
山口蓬春邸・画室前廊下
左: 画室前にある水屋            右: 廊下の床は赤松の縁甲板
山口蓬春邸・2階
〔2005年 撮影〕竣工時からある2階の座敷で吉田五十八が改修。 新しい画室を増築するまで、こちらを画室としていた。
その後は寝室(10~5月)、予備室として使用。 広縁の窓の高さを下げる改修が施された。 手前にある漆塗りの机は三角形で構成され、様々な形に変化する。
昭和29年(1954)岡村多聞堂により15台納品されたと「峰春日記」に書かれているという。
山口蓬春邸・2階2
左:2階の階段口                    
右:広縁にある水屋。 左上の壁に洗った筆を吊るす竹釘があるが、1階の水屋にはない。
山口蓬春邸・桔梗の間1
桔梗の間:天井や襖の唐紙が桔梗の図柄
夫人の来客用、客用寝室・お手伝いさんに茶道を教える場として利用されたという。
右の写真は、水屋手前の収納。 その脇には玄関へとつながる出入口が。  
山口蓬春邸・桔梗の間2
桔梗の間:竣工時からある1階の座敷で吉田五十八が改修。
長押は竣工当初のものと思われるが、床の間の落とし掛けはいつ頃、外したのだろうか。
山口蓬春邸・茶の間1
昭和32年に増築された茶の間: 仏壇の上に神棚があり、上げ下げ戸は壁内に収納される。
山口蓬春邸・茶の間2
茶の間:夫人の物か?御所人形のコレクターであったようだ。
山口蓬春邸・茶の間天井
茶の間の天井と建具。 欄間障子4枚の両端2枚を固定し、壁をなくしている。 多少 鴨居に歪みが出ているが、部屋が明るくなる。 
山口蓬春邸・茶の間4
茶の間の広縁にある水屋。 食器棚の側板をなくし建物と一体化させている。
壁の左側には、収納された雨戸を引き出すための蓋がチラリと見える。
山口蓬春邸・廊下2
左:内玄関前の廊下にある飾り棚      右:内玄関 (昭和32年の改築部分)
山口蓬春邸・廊下1
左: 内玄関前の廊下。 右手に御手洗いがある。
右: 御手洗いの建具。 ここでも横枠を隠し、シンプルに見せている。
山口蓬春邸・御手洗
左:トイレ (昭和32年の改築部分)      右:トイレと手洗い境の壁


 山口蓬春は、明治26年(1893/10/15)北海道松前郡松城町(現・松前町)で、銀行員の3男として生まれ、『三郎』と命名されます。
東京美術学校(現・東京藝術大学)の西洋画科から日本画科に移り、教授の松岡映丘(柳田国男の弟)から大和絵を学び、大正12年(1923)に卒業しました。 松岡映丘は弟子達に鎧を作らせ、鎌倉でねり歩かせたそうで、蓬春邸では節句の時期になると、座敷の床の間にその鎧を飾っていました。 (※1)
 昭和5年に木村荘八(洋画家)・中川紀元(洋画家)・福田平八郎(日本画家)らと共に六潮会(りくちょうかい)を結成。 主な作品としては、《 三熊野の那智の御山1926 》、《 武蔵野(旧歌舞伎座緞帳原画)1959 》、《 楓(皇居宮殿 松之間杉戸)1968 》等。 昭和40年(1965)には文化勲章を受章しています。 そして、昭和46年5月31日、山口蓬春は葉山の邸宅で永眠しました。
 東京(世田谷区祖師谷444)の住まいについては、雑誌(※3)の中にチラリと出てきます。
竹藪がある曲がりくねった道を進み、数寄屋造りの瀟洒な玄関に辿り着いた記者は・・・「案内されて茶室風の応接間で待つことしばし、襖がサラリと開いたらそこに、袖なし羽織を着た愛想のよい主人の笑顔が軽く両手をついて控えていた。」と著しています。 その写真には、畳の画室に薄色の毛氈を敷き、火鉢の傍らで煙草とカメラを手に持つ蓬春が写っています。
 蓬春は一時ライカに凝り、現像まで行った程のカメラ好きでした。 そのきっかけは、山歩きが好きで、絵になる風景に出会った際、同行者を待たせない為にカメラを活用し、自然を 絵 として考えなくて済むので、心からのんびり保養する事ができたそうです。(※3)  後にそのライカは、葉山の家の購入資金のために手放しています。
 また、蓬春は室内犬を飼っていたとの事で、この家の仏壇に愛犬の写真が飾られていますが、先程の雑誌には蓬春のアルバムの中にコリー(シェルティ?)の写真がありました。 という事はこの犬を描いた作品もあるのでしょうか。
 ちなみに春子夫人も日本画を描き、『光園』という雅号を持っています。 漫画家・北澤楽天から娘の様に可愛がられ、蓬春とは大正15年12月に結婚しました。 戸籍上の名前は『はる』ですが、当時の流行りなのか、名前に『子』を付ける女性が多く、この様に本名が違う事がよくあります。 春子夫人は六潮会の牧野・中川と3人でよく酒を飲み 不思議な愛嬌を具えた女性であったとの事。(※1)   1991/11/11 他界
 さいたま市立漫画会館では、北澤楽天と山口春子夫人の作品も所蔵されているそうです。  ※詳しくはコチラ⇒【漫画会館

【参考文献】
(※1) 「画家を訪ねて-山口蓬春」 難波専太郎 著 1952  美術探求社
(※2) 新建築30 「山口蓬春」 1955/06  新建築社
(※3) アサヒカメラ31-5 「カメラ禮讃(山口蓬春画伯訪問記)」 1941/05  朝日新聞出版

【2014年 10月訪問】

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